神奈川県横浜市鶴見区の非現住建造物等放火事件
神奈川県横浜市鶴見区の非現住建造物等放火事件について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説します。
【刑事事件例】
神奈川県横浜市鶴見区に住むAさんは,木造建築の自宅にあった神棚に火のついたろうそくを立てて礼拝をしたところ,そのろうそく立てが不完全であったため,倒れてしまう可能性がありました。
Aさんは,自宅には火災保険がかけられていることを想起し,保険金を入手しようと考え,倒れたろうそくの火が燃え広がり,自宅を焼損する可能性があることを認識しながら,火のついたろうそくをそのまま放置しました。
その結果,ろうそくが倒れ,Aさんの自宅を全焼させるに至りました。
神奈川県鶴見警察署の捜査の結果,Aさんは非現住建造物等放火罪の容疑で逮捕されました。
(刑事事件例はフィクションです。)
【非現住建造物等放火罪とは】
刑法109条1項(他人所有非現住建造物等放火罪)
放火して,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない建造物…を焼損した者は,2年以上の有期懲役に処する。
他人所有非現住建造物等放火罪は,放火して,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない建造物を焼損した場合に成立します。
刑法115条(差押え等に係る自己の物に関する特例)
第109条第1項及び第110条第1項に規定する物が自己の所有に係るものであっても,差押えを受け,物権を負担し,賃貸し,又は保険に付したものである場合において,これを焼損したときは,他人の物を焼損した者の例による。
刑法115条では,建造物が自己所有のものであっても,保険に付したものである場合には,その建造物は他人所有のものであると扱うことを規定しています。
すなわち,放火して,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない,保険のかかった自己所有の建造物を焼損した場合には,他人所有非現住建造物等放火罪が成立します。
【不作為による非現住建造物等放火罪の成立について】
ここで,刑事事件例の非現住建造物等放火事件は,例えば,マッチを擦って直接を建造物につけたり,ガソリンをまいて火を放ったりするという故意の積極的な手段(作為)により行われたわけではありません。
刑事事件例の非現住建造物等放火事件は,建造物の焼損のおそれがある場合に,防止措置をとらなかったという不作為によって起こったといえます。
このように,不作為によって建造物を焼損した場合,放火罪(刑事事件例では非現住建造物等放火罪)は成立するのでしょうか。
この点,大審院判決昭和13年3月1日は,以下のように述べています。
放火罪は,故意に積極的手段により行わるるを普通とすといえども,自己の故意に帰すべからざる原因により火が自己の家屋に燃焼することあるべき危険のある場合,その危険の発生を防止すること可能なるにかかわらず,その危険を利用する意思をもって消火に必要なる措置を執らず,因て家屋に延焼せしめたるときもまた法律にいわゆる火を放つの行為をなしたるものに該当するものとす。
…けだし,自己の家屋が燃焼のおそれある場合に,これが防止の措置をとらず,かえって既発の危険を利用する意思にて外出するが如きは,観念上作為をもって放火すると同一にして同条にいわゆる火を放つの行為に該当すればなり。
判旨を平たく言えば,以下の通りとなります。
放火罪は,故意のある積極的行為によって行われるのが普通です。
しかし,自分の故意によらない原因によって火が自分の家屋に延焼する危険がある場合において,その危険を防止することが可能であるにもかかわらず,その危険を利用する意思をもって消火に必要な行為を行わず,その結果家屋が焼損したときは,積極的行為によって放火をした場合と同視することができ,放火罪が成立します。
このように,非現住建造物等放火罪は,不作為によっても成立し得る犯罪です。
「別に積極的な放火行為はしていないのだから,非現住建造物等放火罪は成立しないだろう。悪くても失火罪程度だろう。」などと安易に考えてしまうと,他人所有非現住建造物等放火罪の刑事罰として2年以上の有期懲役が科されてしまう可能性があります。
もし,不作為により非現住建造物等放火事件を起こしてしまった場合は,すぐに刑事弁護士に相談して,適切な法的助言を受けることをお薦めします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部は,刑事事件を専門に扱う法律事務所です。
神奈川県横浜市鶴見区の現住建造物等放火事件でお困りの場合は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部までご相談ください。