万引きのつもりが強盗に

万引きのつもりが強盗に

店内の商品を万引きして店を出たところ,店員に見つかって取り押さえられそうになり,もみ合いになった結果店員が転倒して怪我をしたという場合の事後強盗事件について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説致します。
【ケース】
神奈川県鎌倉市在住のAは,鎌倉市内の会社に勤める会社員です。
ある日,Aはテレビで見た最新のイヤホンが欲しいと考えましたが,手持ちの金額では購入することが出来ませんでした。
そこで,そのイヤホンを万引きしようと考え,鎌倉市内の家電量販店に行き,欲しかったイヤホンを万引きして店を出ました。
ところが,店員VがAの万引き行為に気が付き,Aが店を出たところを見計らって「購入していない商品があるよね。事務所まで来てもらえない?」と言われました。
万引きが発覚してパニックになったAは、Aの腕を掴もうとしたVを突き飛ばしたところ、Vは転倒し、その際に窓ガラスにぶつかってしまいその窓ガラスが割れ、頭などを切る全治2カ月の重傷を負いました。

鎌倉市を管轄する鎌倉警察署の警察官は,捜査の結果Aによる事後強盗事件であると判断し、Aを事後強盗罪で逮捕しました。
Aの家族は、万引きが目的であったにもかかわらず「強盗」となっているのはなぜか、弁護士に質問しました。

≪ケースは全てフィクションです。≫

【万引きの場合に問題となる罪】

①窃盗罪
万引きは、窃盗罪に当たります。
窃盗罪の法定刑は以下のとおりです。

刑法235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

②ケースのAは万引きを目的に家電量販店を訪れていることから、建造物侵入罪に当たる可能性があります。
建造物侵入罪は、正当な理由なく建造物に侵入することにより成立する罪です。

刑法130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

なお、窃盗罪を犯す目的で建造物侵入罪に当たる行為をしたと判断された場合、窃盗罪のみの刑罰を受けることになります。

 

万引き行為を軽視している方もおられるようですが、万引きが発覚した場合、金額や目的、万引きの頻度などにより、初犯でも起訴され裁判になる可能性すらある行為です。

【万引きのはずが事後強盗罪に】

ケースのAについては、万引き行為が店員Vに発覚していて、それについて追及されようとしたところ逃走を図るためにVを突き飛ばしました。
結果Vは転倒し、ガラスを割ってそのガラスで頭を切るけがを受けています。
これは、事後強盗という罪に当たる可能性があります。

強盗」と言うと、相手を脅したりケガさせたりして隙をついて財物を奪う行為を思い浮かべる方が多いかと思います。
では事後強盗罪はというと、刑法で以下のとおり定められています。
刑法238条 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。

事後強盗罪は万引きなどの窃盗をした被疑者が①盗んだ物を取り返されそうになったのを防ごうとしたり、②取り押さえられるなど逮捕される可能性がある場合にそれを免れようとしたり、③証拠などを隠滅したりする目的で目撃者などに対して暴行したり、脅迫をした場合に成立すると定められています。
つまり、万引きが見つかっても自らが逃走しただけでは事後強盗罪は適用されず、相手に何かしらの危害を加えた場合に成立することになります。

なお、事後強盗罪は強盗として論ずると定められています。
強盗罪の法定刑は「五年以上(二十年以下)の有期懲役」と定められていますが、ケースの場合はVが怪我をしていますので、強盗致傷として評価される可能性があります。(強盗致傷罪の法定刑は「無期又は六年以上の懲役」)

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