背任罪と特別背任罪
背任罪と特別背任罪は、ともに責任者の不正行為を罰する法律ですが、その適用範囲や成立要件に違いがあります。この記事では、事例を交えてこれらの罪の成立要件や罰則の違いを詳しく解説します。
背任罪は、企業などに勤める会社員が、その職務において、自分や他人の利益のために組織に損害を与えた場合に適用される罪です。 具体的には、営業職の会社員がより安い見積りを出している会社があるにも関わらず、高い見積を出している友人の会社などと取引をするなどの場合が該当します。
成立要件には以下の要素が含まれます。
- 他人のためにその事務を処理する者であること
- 組織に損害を与える行為であること
- 自分や他人の利益を図る意図で行ったこと
罰則は、懲役または罰金になります。
事例としては、過去に某大手企業の役員が、プロジェクトの予算を横領して自らの会社を興したケースがあります。 この場合、役員は企業に大きな損害を与えたため、背任罪で起訴されました。
以上のように、背任罪は責任者が職務において不正行為を行った場合に適用される罪です。
特別背任罪とは
背任罪は刑法に規定があるのに対し、特別背任罪は会社法にその規定があります。
特別背任罪は、背任罪と同様に「自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えた」場合に適用される罪ですが、その対象が下記の場合に限られます。(会社法960条1項)
- 発起人
- 設立時取締役又は設立時監査役
- 取締役、会計参与、監査役又は執行役
- 民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者
- 会社法第三百四十六条第二項、第三百五十一条第二項又は第四百一条第三項の規定により選任された一時取締役、執行役又は代表執行役の職務を行うべき者
- 支配人
- 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
- 検査役
- 清算株式会社の清算人
- 民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された清算株式会社の清算人の職務を代行する者
- 会社法第四百七十九条第四項において準用する第三百四十六条第二項又は第四百八十三条第六項において準用する第三百五十一条第二項の規定により選任された一時清算人又は代表清算人の職務を行うべき者
- 清算人代理
- 監督委員
- 調査委員
罰則は、通常の背任罪よりも厳しく、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金で、併科されることもあります。
事例としては、社会福祉法人の資金を私的に流用したことで1000万円以上の損害を与えたという元理事長の被告人に対し、裁判所は、特別背任の罪で有罪として実刑判決を宣告しました。
特別背任罪は、社会的に重要な役割を担う者が責任を逃れることなく、厳正に審議されるための罪です。
両罪の適用範囲: 背任罪と特別背任罪が適用される対象者
背任罪と特別背任罪が適用される対象者は、その名前からもわかるように明確に区分されています。
背任罪は、企業や団体で契約などを決めることができる責任者に適用されます。 これに対して、特別背任罪は、特定の社会的地位や業種に限られた対象者に適用されます。
背任罪が適用される主な対象者:
- 企業の役員や経営者
- その他、組織の資産を管理する者
特別背任罪が適用される主な対象者:
- 企業の取締役
- 監査役
- その他、法によって特に定められた職種
背任罪が一般の責任者に広く適用されるのに対し、特別背任罪はより限定的な対象者に対して適用されます。
この違いは、特別背任罪が対象とする者が担う社会的責任の重さから来ています。
以上のように、適用される対象者によって、背任罪と特別背任罪は区別されます。
背任罪と特別背任罪の罰則内容
背任罪と特別背任罪には、罰則にも明確な違いがあります。
背任罪の場合、一般的には懲役刑や罰金刑が科されることが多いです。
しかし、その範囲は広く、具体的な罰則は事件の重大性や影響を受ける可能性が高いです。
特別背任罪においては、罰則は通常よりも厳格です。
これは、特別背任罪が適用される対象者が担う社会的責任が大きいため、その反社会性も相応に重く見なされるからです。
特別背任罪では、しばしば懲役刑が科されることがあります。
たとえば、背任罪であれば会社の資産を横領した場合、数年の懲役が科されることが一般的です。
一方、特別背任罪では公務員が公金を横領した場合、その罰則はより厳しいものとなり得ます。
これらの罰則は、それぞれの罪の成立要件と合わせて、法律が社会的な責任をどのように評価しているかを示しています。
両罪の成立要件を一覧表で比較
背任罪と特別背任罪の成立要件は似ていますが、細かい違いがあります。
この部分では、成立要件を一覧表で簡潔に比較し、その違いを明確にします。
成立要件 | 背任罪 | 特別背任罪 |
---|---|---|
根拠条文 | 刑法247条 | 会社法960条 |
対象者 | 他人のためにその事務を処理する者 | 企業の役員、経営者等 |
職務上の行為 | 必須 | 必須 |
組織への損害 | 必須 | 必須 |
利益の図測 | 必須 | 必須 |
社会的責任 | 一般的 | 高い |
罰則 | 5年以下の懲役/50万円以下の罰金 | 10年以下の懲役/1000万円以下の罰金(併科あり) |
この一覧表からわかるように、成立要件自体は非常に似ていますが、罰則の厳格さや適用される対象者に違いがあります。
特に、特別背任罪では社会的責任が高く評価され、罰則も厳しいものが多いです。
この成立要件の違いが、背任罪と特別背任罪がどのような状況で適用されるのかを理解するための重要な指標となります。
背任罪と特別背任罪の事例解説
背任罪と特別背任罪の違いを理解するためには、具体的な事例を考慮することが有用です。
この項では、それぞれの罪がどのような状況で適用されるのかを、実際の事例を用いて解説します。
背任罪の事例
1つ目の事例は、ある大企業の会社員が、所属する会社の機密情報を同業他社に漏らしたというケースです。その会社員は逮捕・勾留・起訴され、執行猶予付きの懲役刑が科されました。
特別背任罪の事例
2つ目の事例は、ある中小企業の社長が会社の資産を私的に使用し、その結果、会社に大きな損害を与えたケースです。
この社長は背任罪で起訴され、厳しい懲役刑が科されました。
これらの事例から、背任罪は一般的な企業や団体における責任者に対して適用されることが多く、特別背任罪は公的な立場にある者に対して適用されることが多いです。
また、罰則の厳格さもそれぞれの罪で異なり、特別背任罪の方が通常より厳しい罰則が科されます。
背任罪と特別背任罪を防ぐための手段
背任罪と特別背任罪は、組織や社会に対して深刻な影響を及ぼす可能性があります。
そのため、これらの罪を未然に防ぐための対策が重要です。
この項では、いくつかの防止策と対処法を具体的に紹介します。
内部監査の強化
組織内での不正行為を早期に発見するためには、内部監査の体制を強化することが必要です。
定期的な監査によって、不正な取引や金銭の流れをチェックできます。
教育と啓発
職員や役員に対して、背任罪や特別背任罪の重大性を理解させる教育と啓発が必要です。
これによって、個々の人が自分の行動が組織や社会に与える影響を理解し、防止策を自発的に行う可能性が高まります。
相談窓口の設置
不正行為を発見した際に、安全に報告できる仕組みが整っていると、早期に問題が発覚しやすくなります。
そのため、内部告発の窓口を設置することが推奨されます。
これらの対策は、背任罪と特別背任罪を未然に防ぐためのものですが、万が一発生した場合には専門の法律家に相談することが最も確実な対処法と言えます。
以上が背任罪と特別背任罪に関する法律解説の全体像です。
この記事を通して、これらの罪の成立要件、罰則、適用範囲、防止策などについて詳しく知ることができたでしょうか。
ご自身が背任罪や特別背任罪で捜査されている、捜査される恐れがあるという場合、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部にご相談ください。