正当防衛に引き続く傷害事件
正当防衛に引き続く傷害事件について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説します。
【刑事事件例】
Aさんは,神奈川県横浜市港北区の屋外喫煙所において,Vさんから顔面を殴打されるなどの暴行を受けました。
これに対して,反撃として,AさんもVさんの顔面を殴打するなどの暴行を加えました(以下,第1暴行と呼びます)。
Vさんは転倒して後頭部を打ち付け動かなくなりましたが,AさんはVさんに対してさらに足蹴りしたり,踏みつけたりするなどの暴行を加えました(以下,第2暴行と呼びます)。
Vさんは,数時間後に病院に搬送されましたが,第1暴行後の転倒により後頭部を打ち付けたことを原因として死亡しました。
その後,Aさんは,傷害罪の容疑で逮捕されました。
このような正当防衛に引き続く傷害事件を起こしてしまった場合,正当防衛はどこまで成立し,Aさんにはどのような刑事罰が科されてしまうのでしょうか。
(刑事事件例は,最高裁判所決定平成20年6月25日を参考に作成したフィクションです。)
【第1暴行と正当防衛について】
刑法36条
急迫不正の侵害に対して,自己又は他人の権利を防衛するため,やむを得ずにした行為は,罰しない。
正当防衛は,刑法36条に規定されています。
正当防衛の成立要件は,①急迫不正の侵害があること(侵害行為が現に存在しているか,又は間近に押し迫っていること),②防衛の意思をもって反撃行為に及んだこと,③その防衛行為に相当性があること(防衛行為が必要最小限度であること)です。
なお,正当防衛の成立要件である防衛行為に相当性があれば,その反撃行為によってたまたま重大な結果が生じたとしても,その反撃行為が正当防衛にならなくなってしまうということはありません。
刑事事件例では,傷害事件の内容が複雑ですので,既に述べたように,第1暴行と第2暴行に分けて考えていきます。
まず,第1暴行行為についてですが,Aさんは,現実にVさんによって顔面を殴られており,この反撃として,Vさんの顔面を殴り返しています。
この場合,Vさんによる顔面殴打行為という急迫不正の侵害,防衛の意思としてのAさんの反撃する意思,Vさんに殴られたので殴り返したという防衛の相当性が認められると考えられます。
よって,第1暴行行為(結果としては傷害致死罪)には正当防衛が成立すると考えられます。
【第2暴行と傷害罪について】
次に,第2暴行行為についてですが,Aさんは,Vさんが転倒して後頭部を打ち付け動かなくなった後,Vさんに対してさらに足蹴りしたり,踏みつけたりするなどの暴行を加えています。
このように,正当防衛に引き続く傷害事件を起こしてしまった場合,その傷害行為にも正当防衛が成立するのでしょうか。
この問題点については,最高裁判所決定平成20年6月25日では,第1暴行行為と第2暴行行為は,時間的,場所的には連続しているものの,第1暴行行為と第2暴行行為の間に,被害者の方による顔面殴打行為という急迫不正の侵害が止んでいるにも関わらず,第2暴行行為を行った場合には,第2暴行行為について正当防衛は成立せず,傷害罪が成立すると判示しています。
この判例を踏まえると,Aさんには傷害罪が成立すると考えられます。
傷害罪は刑法204条により,「人の身体を傷害した者は,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と定められており,最長で15年の懲役刑(実刑)を科されてしまう可能性のある重大な犯罪です。
正当防衛に引き続く傷害事件を起こしてしまった場合には,傷害事件を起こしてしまった経緯や動機などを刑事弁護士に情状として主張してもらって,寛大な刑事罰で済むようにしてもらうことをお薦めします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部は,刑事事件を専門に扱う法律事務所です。
正当防衛に引き続く傷害事件でお困りの場合は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部までご相談ください。