人身事故・死亡事故

人身事故・死亡事故を起こした場合に問われる罪

自動車の運転中に人身事故を起こした場合の罰則については、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(自動車運転死傷行為処罰法)に定められています。

従来は、自動車による人身事故の罰則については刑法の中に規定が置かれていましたが、自動車事故の多発と国民の処罰感情の高まりを受けて、規制を強化する形で、平成25年に上記の法律が制定されました。

 

具体的な人身事故の犯罪類型について

自動車運転死傷行為処罰法で定められている人身事故の場合にあたりうる犯罪類型は、以下のとおりです。

通常の交通事故であれば、自動車運転死傷行為処罰法5条の過失運転死傷罪が成立することが多いです。

しかし、あえて危険な運転行為をして人身事故を起こした、飲酒や薬物の影響があったことを隠ぺいしようとした、無免許で人身事故を起こしたといった、より悪質な類型では、刑罰が重く定められています。

それぞれの犯罪類型ごとの刑事罰については、下の表をご覧ください。

 

危険運転致死傷罪

①酩酊運転(自動車運転死傷行為処罰法2条1号)
「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態」で自動車を走行させ、よって、人を死傷させる罪です。道路交通法上の酒酔い運転罪よりも要件が厳しい一方で、刑事罰が重くなっています。
なお、飲酒だけでなく、薬物により正常な運転が困難な場合も該当します。

②制御困難運転(同法2条2号
進行を制御することが困難な光速度で自動車を走行させ、よって、人を死傷させる罪です。
速度違反のように、何キロオーバーということが数値で決まっているわけではなく、道路状況や事故状況に応じて判断されます。

③未熟運転(同法2条3号)
進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させ、よって、人を死傷させる罪です。
「進行を制御する技能を有しない」とは、基本的な自動車操作の技能を有しないことを意味します。具体例としては、無免許であることが挙げられますが、長年ペーパードライバーであったような場合も含まれると解されます。

④妨害運転致死傷(同法2条4号
人または車の通行を妨害する目的で、通行中の人または車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって、人を死傷させる罪です。
急な割り込み、幅寄せ、あおり、対向車線へのはみだし行為などにより、走行する他車のハンドル操作を誤らせて死傷事故を起こしたような場合をいいます。
「妨害する目的」とは、動機であり、走行する他車に衝突を避けるための急な回避措置をとらせるなど、相手方の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することをいいます。したがって、なんらかの事情でやむなく割り込むような場合には、相手方の通行を妨害することになると認識していても本罪は成立しません。

⑤信号無視運転致死傷(同法2条5号)
赤色信号またはこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって、人を死傷させる罪です。
「殊更に無視」とは、赤信号であることを認識している場合のみでなく、およそ赤色信号標識に従う意思のない場合をいいます。
例えば、赤色信号であることを見過ごした場合は「殊更に無視」にはあたらないこととなります。

⑥通行禁止道路運転(同法2条6号)
通行禁止の道路において、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転して人身事故を起こした場合の罪です。
他の時間は通行禁止になっていなくても、通学の時間などに限って通行禁止になっている道路、というのが学校の近くなどではありますので注意が必要です。

 

準危険運転致死傷罪(同法3条1項)

アルコールや薬物、あるいは一定の病気による影響により、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物、あるいはその病気の影響により、正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合に成立します。

人を負傷させた場合には、12年以下の懲役が、人を死亡させた場合には、15年以下の懲役が科されます(自動車運転死傷行為処罰法3条)。

「正常な運転が困難な状態」までいかなくとも、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」で「正常な運転が困難な状態に陥り」人を死傷させた場合に成立します。

 

アルコール等影響発覚免脱罪(同法4条)

新法により追加されました。

アルコール又は薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で事故を起こし、人を死傷させた場合に、運転当時のアルコール又は薬物の影響の有無や程度が発覚することを免れる目的で、さらにアルコールを窃取、あるいは、その場から離れアルコール又は薬物の濃度を減少させること等をした場合に成立します。

例えば、飲酒運転をして、人身事故・死亡事故を起こし、その場から逃走した場合や、水を大量に摂取してアルコール濃度を減少させた場合などが、発覚免脱罪に当たる行為です。

これは、飲酒運転の逃げ得を許さないため、通常の場合に比べ、重い罰則を科しています。

 

過失運転致死傷(同法5条)

自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます。

前方不注視やスピード違反などの過失により、自動車事故で人を負傷させたり、死亡させたりする場合に成立します。

 

無免許による加重(同法6条)

以上の罪を犯した人が、無免許だった場合、刑がさらに重くなることになりました。(「未熟運転)は除く)

 

自動車運転死傷行為処罰法の刑事罰まとめ

罪名 結果 刑罰・法定刑
無免許運転以外の場合 無免許運転の場合
(6条)
危険運転致死傷罪
(2条)
死亡 1年以上の有期懲役
(最高20年)
負傷 15年以下の懲役 6月以上の有期懲役
(1項)
(最高20年)
準危険運転致死傷罪 (3条)
アルコール・薬物・病気
死亡 15年以下の懲役 6月以上の有期懲役
(最高20年)
負傷 12年以下の懲役 15年以下の懲役(2項)
発覚免脱罪(4条) 死亡・負傷 12年以下の懲役 15年以下の懲役(3項)
過失運転死傷罪
(5条)
死亡・負傷 7年以下の懲役、禁錮
又は
100万円以下の罰金
10年以下の懲役(4項)

 

人身事故・死亡事故における弁護活動

無実の主張

人身事故・死亡事故を起こしてしまっても、死傷結果を予期できなかった、または回避できなかったという場合、運転者に過失は認められず、犯罪は成立しません。

そこで、そのような場合には、客観的証拠に基づき、運転状況や被害者の行動などを精査し、運転者が死傷結果を予期できなかった、または回避できなかったと主張し、不起訴処分や無罪判決を目指します。

また、危険運転致死傷罪が成立するには、危険運転をすることについて故意が必要です。

したがって、危険運転行為をするつもりはなく、あくまで過失で人身事故・死亡事故を起こしてしまったにとどまる場合には、過失運転致死傷罪が成立するにとどまることを証拠に基づき主張し、不当に重い刑事罰を科されないよう活動します。

 

被害弁償・示談交渉

人身事故・死亡事故の成立に争いがない場合、主な弁護活動は被害者・遺族の方に対する被害弁償や示談交渉になります。

こうした活動を通じて、被害者に対する償いの気持ちを伝え、できる限りの被害回復をして寛大な刑事処分を目指します。

示談が成立すると、被害の結果が重大な場合や犯行態様が悪質な場合を除いて、起訴猶予による不起訴処分、略式罰金、執行猶予付き判決という寛大な刑事処分を受けられる可能性があります。

 

裁判員裁判の準備・遂行

危険運転により人を死亡させた場合には、裁判員対象事件となります。したがって、罪となる事実に争いがあるか否かを問わず、一般国民である裁判員の方を納得させるだけの証拠・主張を準備することが必要ですし、分かりやすい主張であることを心掛けなければなりません。

裁判員裁判に必要な綿密な準備や、分かりやすい主張ができるかという点については、刑事弁護人の腕の見せ所といえるでしょう。

 

情状弁護の主張

人身事故・死亡事故について有罪判決が下されることを免れないとしても、被害者や遺族の方などに対する被害弁償や示談成立の事実、加害者の不注意の程度が軽微であった、被害者側にも落ち度があったことなど、被告人に有利な事情を証拠に基づき主張して、減刑や執行猶予付き判決の獲得を目指します。

また、事件の性質に応じて、今後被告人が車に乗ることがないように廃車にしたり、被告人と同居するご家族に車の鍵などを厳しく管理してもらうなど、環境を整えた上で、それを被告人に有利な事情として主張・立証することも検討します。

 

身柄解放活動

人身事故・死亡事故で逮捕・勾留されてしまった場合でも、証拠隠滅や逃亡の可能性がないことや、養うべき家族がいるなど身体拘束による不利益が大きいこと、したがって勾留の理由や必要性がないことを、証拠に基づき主張し、早期の釈放・保釈を目指します。

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