神奈川県海老名市で発生した飲酒運転・死亡事故を起こしたという架空の事例を想定し、成立する罪について検討
飲酒運転のうえ死亡事故を起こした場合、通常の人身事故に比べ厳しい刑事処罰が科せられます。
当ブログは、飲酒運転をしてしまい事故を起こし被害者が死亡してしまったという架空の事例を想定したうえで、検討される罪について記したものです。
【ケース】
神奈川県海老名市在住のAさんは、海老名市内の会社に勤める会社員です。
Aさんは事件当日、自車を運転して友人らとドライブをし、旅先で飲酒をしたうえで、帰りも運転をしました。
しかしAさんは酒に酔っていたため海老名市内の直線道路でハンドルを切ってしまい、ガードレールにぶつかり、車両は大破する事故になりました。
この事故で、同乗していたAさんの友人であるVさんが死亡してしまいました。
Aさん自身も大怪我を負い救急搬送されたため、海老名市内を管轄する海老名警察署の警察官は、Aさんを在宅で捜査することとしました。
≪ケースはすべてフィクションです≫
【飲酒運転について】
道路交通法では酒気を帯びている、あるいは酒に酔っている状態での自動車等の車両の運転を禁止しています。
道路交通法65条1項 何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
同117条の2第1項1号 第65条第1項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において酒に酔つた状態にあつたもの(罰条:5年以下の懲役又は100万円以下の罰金)
同117条の2の2第1項第3号 第65条第1項の規定に違反して車両等を運転した者で、その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの(罰条:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)
酒気を帯びた状態というのは、政令に定められている基準値を超えるアルコールが体内から検知された場合を指します。
2024年2月28日現在、この基準値は
・血液1㎖につき0.3mg
・呼気1Lにつき0.15mg
と定められています。(道路交通法施行令44条の3)
更に、道路交通法117条の2第1項1号において、酒に酔つた状態として「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」と定められています。
以下、飲酒運転のまとめです。
前提として、酒をごく少量でも帯びた上で運転する行為は、飲酒運転として扱われるため、運転をしてはいけません。
そのうえで、上記の基準値を超えて酒気を帯びていた場合には、酒気帯び運転の罪に問われます。
また、酒に酔った状態で運転していた場合には酒酔い運転となりより厳しい刑事罰が科せられます。
酒酔い運転に当たるかどうかについては、呼気検査・血液検査により体内にどれくらいのアルコールが入っているか、受け答えがしっかりできているか、歩行検査(まっつぐ歩けているか)などの検査によって決められます。
【飲酒して人身事故を起こした場合に問題となる危険運転致死傷罪】
自動車等を運転して事故を起こし被害者を死傷させた場合、過失運転致死傷罪に問われます。
(過失運転致死傷罪)
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
5条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
しかし、事例のAさんのように飲酒運転で人身事故を起こしてしまった場合、過失運転致死傷罪ではなく危険運転致死傷罪に問われる可能性があります。
条文は以下のとおりです。
(危険運転致死傷罪)
同2条1項 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。
1号 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
同3条 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は12年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は15年以下の懲役に処する。
危険運転致死傷罪は、単に飲酒運転による人身事故というだけではなく、
・アルコールの影響で正常な運転が困難な状態で運転して人身事故を起こした
・アルコールの影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転し、その結果アルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥り人身事故を起こした
という場合に成立します。
2つとも同じような要件に見えますが、前者は既に酩酊している状態で運転した場合に成立する罪で、後者は、運転を開始した時点では酩酊していなかったものの、ある程度酒を飲んでいるなどで運転中に酒が回って泥酔状態になる可能性がある状態であることが要件になります。
よって、たとえば事例のAさんがほろ酔い程度で正常な運転ができ得る状態で運転をしていたが、結果として事故を起こしたという場合であれば、危険運転致死傷罪は成立せず、酒気帯び運転(道路交通法違反)と過失運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律違反)で捜査されることになります。
【飲酒運転で事故を起こした場合の弁護活動】
飲酒運転で事故を起こしてしまい、その結果被害者が死傷した場合、弁護士としては運転当時の状況(アルコールの影響の程度)が気になるところです。
たとえば、事件から時間が経った後に呼気検査が行われていた場合、それは事故当時の数値と異なる可能性があります。
アルコールは吸収に時間がかかるため、飲酒後しばらく経ってから数値が高くなる傾向にあるためです。
また、取調べで飲酒の量について質問された場合に、捜査機関が実際の飲酒量より多く飲んだのではないかと疑い、誘導或いは厳しい取調べが行われるおそれがあるため、弁護士は取調べの内容について逐一確認する必要があります。
とはいえ、飲酒の有無に関わらず、人身事故を起こした場合には被害者が死傷しているわけですから、賠償が必要になります。
この点、任意で保険に加入している場合は対人対物無制限で補償される場合がありますが、契約の内容次第では部分的にしか補償が認められないばあや、飲酒運転の場合には保険金が支給されないという場合もあるため、注意が必要です。
また、保険会社から被害弁済が行われていた場合であっても、被害者・ご遺族に対して謝罪と別途の弁済を行う必要があると考えられます。
弁護士は、状況に応じて示談交渉を行い、厳しい刑事処罰を回避するよう努めます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部は、刑事事件・少年事件を専門とする弁護士事務所です。
当事務所の弁護士は、危険運転致死傷罪を含む交通事故事件の経験も豊富です。
神奈川県海老名市にて、家族が飲酒運転をして被害者を死傷させてしまい危険運転致死傷罪で逮捕されているという場合、御自身が在宅で捜査を受けているという場合、まずは弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部にお問い合わせください。