痴漢とは
痴漢とは、一般的に、公共の場所や公共の乗物内において、人の身体を触ることをいいます。
もっとも、後で述べるとおり、触り方などによっては、強制わいせつ罪が成立する場合もあります。
痴漢は、都道府県ごとに定められている迷惑防止条例に違反する罪になります。
神奈川県の迷惑防止条例(神奈川県迷惑行為防止条例)では、痴漢行為の禁止については以下のように定められています。
神奈川県迷惑行為防止条例3条
何人も、公共の場所にいる人又は公共の乗物に乗っている人に対し、人を著しく羞恥(しゅうち)させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から、又は直接に人の身体に触れること。
「公共の場所」とは、社会一般に開放され、不特定多数の人が自由に出入りし、利用できる場所を意味します。公共の場所に当たるかどうかの判断は、痴漢現場の構造・性質や犯行時の状況によって変わりますが、一般的には会社内のトイレや個人の家などは含まれません。
「公共の乗物」とは、公共交通機関である電車、バス、船舶、飛行機などの乗り物です。
神奈川県迷惑行為防止条例に反する痴漢行為を行った場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。
不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)が成立する場合
人の身体を触る態様によっては、迷惑防止条例違反の痴漢より重い、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)が成立することがあります。
不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)は、相手方の犯行を著しく困難にする程度の暴行・脅迫を用いて、わいせつな行為(被害者の性的羞恥心を害する行為)をした場合に成立します。
例えば、被害者の下着の下に手を入れて乳房や陰部を触るなど、行為態様が強度である場合は、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)が成立し得ます。
他方、着衣の上から触るにとどまる場合は、迷惑防止条例違反の罪に問われることがほとんどでしょう。ただし、着衣の上からであっても、執拗に胸や陰部を弄んだ場合は、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)に問われる可能性もあります。
上で述べたとおり、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)の法定刑(6月以上10年以下拘禁刑)は迷惑防止条例違反より重く、また、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)は罰金刑がないため、略式裁判とはなり得ず、起訴されれば正式裁判となります。したがって、迷惑防止条例違反と不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)のいずれにあたるか微妙な事件においては、捜査機関が不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)で捜査をしていたとしても、より軽い迷惑防止条例違反が成立するにとどまると主張していく弁護活動が考えられます。
痴漢事件における弁護活動
1 痴漢冤罪であることの主張
痴漢行為をしていないにもかかわらず、痴漢の犯人に間違われ有罪判決を受けてしまう冤罪事件が、近年問題視されています。
特に満員電車などの混雑した場所や明りの少ない夜道など暗い場所では、被害者が偶然の身体的接触を痴漢行為と勘違いしてしまったり、犯人ではない人を犯人と勘違いしてしまったりして痴漢冤罪が発生しやすいと言えます。
また、痴漢冤罪を生み出す大きな原因として、逮捕された人が厳しい取調べに屈して嘘の自白をしてしまうことも挙げられます。
もし自分が痴漢の犯人に間違われてしまったらすぐに弁護士に相談してください。
速やかに疑いをかけられた方のもとに駆け付け、痴漢冤罪を生み出さないよう、的確な取調べ対応などのアドバイスを行います。
さらに痴漢事件では、被害者の供述が核となる場合が多いですから、痴漢の疑いを晴らすために、弁護士が独自の捜査を行い、目撃者の証言やその他の客観的証拠を精査し、被害者の証言が信用性に欠けることを説得的に主張することが重要です。
2 早期の示談成立
痴漢行為をしてしまった場合でも、刑事裁判で有罪判決を受けることを回避できれば、前科がつくことはありません。
そこで、痴漢事件でも不起訴処分を受けるための弁護活動を積極的に行います。被害者との間で示談が成立しているという事情は、検察官が起訴するか否かの判断に大きく影響します。
現在では、不同意わいせつ罪(旧」強制わいせつ罪)も親告罪ではなくなり、被害者等の告訴がなくても起訴され得る犯罪となりました。しかし、依然、被害者との示談の成否や、被害者等による告訴の有無は、検察官の起訴・不起訴の判断に最も影響を与える事情であることに変わりはありません。
しかし、被害者との示談は、痴漢事件において非常に効果のある弁護活動でありますが、一般の方が行うということは非常に難しいと言えます。被害者との示談をお考えの方はぜひ弁護士にご相談ください。
3 早期の身柄解放
痴漢事件で逮捕された場合でも、適切な弁護活動を受けることによって早期に身柄解放されることがあります。
具体的には、逮捕後の勾留手続に進まないように手を尽くすことが肝心です。
そのためには、できるだけ早期に弁護士に相談して適切なアドバイスを求め、釈放後の生活をサポートする身元引受人の協力を得ることが必要です。
弁護士は、被疑者に証拠の隠滅や逃亡の可能性がなく、被疑者が直ちに釈放されるべきであることを証拠に基づき主張し、早期の身柄解放を目指します。