虚偽通報で業務妨害?
虚偽の事件を警察署に対して繰返し通報した場合に問題となる業務妨害等の罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部が解説致します。
【事件】
神奈川県川崎市中原区に住むAさんは,川崎市中原区にある会社に勤める会社員です。
Aさんはいたずら目的で,虚偽の犯罪を作り上げて110番通報することを繰り返し臨場した警察官を眺めることに快感を得ていました。
虚偽の通報を何度も行ったAさんは,偽計業務妨害罪の嫌疑で川崎市中原区を管轄する中原警察署の警察官から呼び出されました。
(フィクションです)
【虚偽通報とは】
虚偽の犯罪事実を警察などの捜査機関に申告することを虚偽通報といいます。
虚偽の通報を行った場合,偽計業務妨害罪(刑法第233条後段)や威力業務妨害罪(刑法第234条),軽犯罪法違反(第16号違反)に問われる可能性があります。
【業務妨害罪について】
偽計業務妨害罪は,虚偽の風説を流布し,または偽計を用いて他人の業務を妨害した場合に成立する犯罪です。
威力業務妨害罪は,他人の業務を妨害する手段として威力が用いられた場合に成立する犯罪です。
偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪の法定刑はどちらも3年以下の懲役または50万円以下の罰金となっています。
今回のケースでは,Aさんは偽計業務妨害罪の嫌疑をかけられています。
偽計業務妨害罪では虚偽の風説の流布と偽計を手段とすることが構成要件となっています。
虚偽の風説の流布とは,客観的真実に反することを不特定または多数の人に伝播させる(拡散させる)ことをいいます。
偽計とは,人を欺罔,誘惑し,あるいは人の錯誤・不知を利用する違法な手段のことをいいます。
先に説明した虚偽の風説の流布も偽計の一種と理解されており,虚偽の風説の流布による業務妨害も偽計業務妨害と呼ばれます。
また,威力業務妨害罪にいう威力は人の意思を制圧するに足りる勢力を用いることをいいます。
ここで,Aさんが行った虚偽の犯罪を警察に通報することが,偽計と威力のいずれに当たるのかが問題となります。
例えば,商業施設などに爆弾を設置したという虚偽の犯罪を通知し,その商業施設を休業させることは,一方では相手方を騙す偽計の要素を含んでいますが,他方で意思を制圧された被害者(商業施設を運営する法人)が本来行えたはずの業務を行えなかったという要素もあり,判例では後者が重点的に評価され威力業務妨害罪の成立が認められています(東京高判平成20・5・19東高刑時報59巻1~12号40頁を参照)。
しかし,警察に対して犯罪予告の虚偽通報がなされ,それがおよそ虚偽でないとは限らないということから徒労となる出動や警戒を余儀なくされた場合には,意思制圧の要素がなく偽計業務妨害罪が成立します(東京高判平成21・3・12高刑集62巻1号21頁)。
上記の判例の事案は虚偽の犯罪を予告した事案ですが,出動や警戒を余儀なくされる点は変わらないため,予告に当たらない場合も警察に対する虚偽の通報は偽計に当たる可能性があり,Aさんの行った虚偽の通報も,その具体的内容によっては偽計に当たると考えられます。
業務妨害罪が成立するためには業務の妨害があったといえなくてはなりません。
ここでの業務の妨害は,業務の外形的な混乱や支障が生じる現実に生じる危険があれば,現実に混乱や支障が生じていなくとも業務の妨害があったと認められます(抽象的危険犯)。
Aさんの通報内容が杜撰なものであれば警察も取り合うことなく,警察の活動に外形的な混乱や支障を生じる具体的な危険があったといえるかどうかは微妙なものになりますが,通報された内容を警察として確認するために現地へ人員を送らなければならなかったりするなど,その間本来であれば遂行されたはずの警ら活動などが遂行できなかった場合には,業務の妨害があったということになります。
よって,Aさんの虚偽の犯罪を警察に通報した行為は,偽計業務妨害罪に問われる可能性があります。
【軽犯罪法違反について】
虚偽の犯罪を警察に通報した場合,虚構の犯罪を公務員に申し出たとして軽犯罪法第1条第16号違反によって処罰される可能性もあります。
軽犯罪法違反の法定刑は拘留または科料です。
単に虚偽の犯罪を警察に通報した場合は,まず法定刑のより軽い軽犯罪法違反として捜査されることが考えられます。
同種の事案で偽計業務妨害罪が適用されるのは,注意されたにもかかわらず虚偽の通報を執拗に繰り返した場合や,回数に関係なく,その犯罪の内容によってより多くの人員や時間を割かなければならず業務の妨害の程度が多大であった場合など,違法性が法定刑の重さに相当すると考えられた場合に限られるものとなります。
Aさんのケースでは,Aさんは以前から警察に虚偽の通報を繰り返していたことから偽計業務妨害罪として捜査が開始されたものだと思われますが,このように既に捜査が開始された場合でも,弁護士に事件を依頼し適切な主張を行うことで被疑罪名が軽犯罪法違反に切り替えられることもあります。
【虚偽通報での弁護活動】
Aさんのケースのように,刑法典に挙げられた犯罪ではなく軽犯罪法違反にすぎないと考えられる事案では,軽犯罪法違反に当たるにすぎないという趣旨の主張を行います。
説明したように,軽犯罪法違反の法定刑は拘留または科料となっており,被疑者が犯した罪が拘留または科料に当たる罪である場合,被疑者が定まった住居を有しない場合や正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合を除いて逮捕できないことになっていますので,単に処罰された不利益を低減するのみならず,逮捕されるリスクを下げることにつながります。
どの行為がどの構成要件に当たるかどうか,違法性の度合いがその犯罪で処罰するに値するものであるかどうかといった評価は法律のプロをもってしても難しい場合があります。
被疑者となってしまったら,正当な評価や処分を得られる可能性を高めるべく,できるだけ早く刑事事件に強い弁護士に事件を依頼することを強くおすすめします。
虚偽通報をしたことにより偽計業務妨害罪や威力業務妨害罪あるいは軽犯罪法違反の被疑者となってしまった方,神奈川県中原警察署から呼出しを受けてしまった方は,お早めに刑事事件を専門とする弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所横浜支部にご相談ください。
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